苦しむこと
- 菱田伊駒
- 2018年4月1日
- 読了時間: 2分
初めて会った最初の時から、考えることを楽しんでいる子どもに会うことがある。そういう子が口にする疑問は、その子が普段生活している環境からふっと浮かび上がってくるような自然さがある。授業で目立つため、先生に良く思われるため、そういう力みが一切ない。問いについて話す口調は、好きな食べ物を聞かれて答えるときの話ぶりと変わりがない。彼の問いは、空腹なときに自然に食欲が湧いてくるのと似ている。
自分が初めてp4cに取り組んだ時、出会った男の子はそんな子だった。それから付き合いがはじまってもう2年になる。
その子が、土曜日に「自分の周りはロボットばっかりだ」と言った。どうして宿題をしなければいけないのか、どうして先生は怒るのか、勉強は何のためにするのか、そうやって考えるのは自分だけで、周りの友だちは疑問に思うことはないらしい。疑問を口にしても分かってもらえない。最近、そう思うことが多い、と。「ぼくはタコかもしれない」と彼は続けた。色んなことを考えてみたい、やってみたい。でもそれは自分だけなのではないかと思う、と。
これまで、彼の口から周囲との関係についての言葉を聞くことは少なかった。自分が考えていることを楽しく話すことが中心だった。学年が上がって周りとの関係が意識されるようになり、その関係のなかで葛藤する彼のありように触れたような気がした。
p4cでは、「不思議に思う心を大切に」を掲げている。問いかける、話す、答える、誰かと一緒にそうするのはかけがえのない時間だと思う。しかし、疑問に思うことで葛藤や苦しみを招いてしまうがある。そもそも、疑問に思わないことで日常を過ごせている面もある。今日眠ると明日目が覚めることを疑う人はほとんどいない。健康、友だち、家族、学校、仕事、疑問に思うことが日常に支障をきたす場面は多い。それでも、不思議に思わないおかげで自分の暮らしが回っていると思うからこそ、疑問を持つことができる数少ない瞬間を貴重だと思わずにはいられない。
彼がこれからどう葛藤と向き合っていくのか。出会うもの、見るもの、考えること、そういった1つ1つを丁寧に一緒に感じていきたいと思う。
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